研究データと神経構造が融合した青い抽象ビジュアル
NAW / RESEARCH 04

IMAGE: AI生成ビジュアル

RESEARCH / Anthropic

Anthropic、Claudeがフェルマーの最終定理の完全な計算機検証付き証明を11日間で生成と発表 — Leanで1,300万行、2.95万の補題

AnthropicはClaudeがほぼ自律的に11日間でフェルマーの最終定理の最初の一貫した計算機検証付き証明をLeanで書き上げたと発表した。1,300万行・約3万の定理、Leanの3つの標準公理のみに依拠。Kevin Buzzard氏が査読し、証明はGitHubで公開されている。

Anthropicは9月4日、Claudeがフェルマーの最終定理(FLT)の「初の完全な計算機検証付き証明」をLeanで書き上げたと発表した。ほぼ自律的な動作で11日間、1,300万行のLeanコードと約3万の中間定理を生成したという。証明はLeanの3つの標準公理のみに依拠し、Imperial College LondonのKevin Buzzard氏が査読した。証明の全文はGitHubで公開されている。数値と経緯はすべてAnthropicの公開記事に基づく。

Claudeがフェルマーの最終定理の形式化に用いたProve2Meの計画 — 3つの中核サブ定理に対応する3色の区画がWilesの証明に沿って並ぶ 出典: Formalizing Fermat’s Last Theorem

何が達成されたか — 11日間・1,300万行・約3万の定理

  • 初の完全な計算機検証付き証明: Claudeは11日間、ほぼ自律的に動作してFLTの最初の一貫した(end-to-end)計算機検証付き証明をLeanで生成した。最終確定はProve2Me上で8月18日02:00:57Z(米東部時間8月17日夜)と記録されている。
  • 規模: 1,300万行のLeanコード、30,300の定理を証明し、そのうち29,500を最終証明に使用した。Mathlib(Leanの主要な数学ライブラリ)の5倍超の規模で、Anthropicは「これまでに構築された最大のLean証明」としている。
  • 検証の厳密さ: 証明はLeanによって検証済みで、Leanの3つの標準公理以外の仮定に依拠しない。比較ツール(comparator)により、証明した定理文がMathlib自身のFLTの定理文と一致することも確認したという。
  • 証明の方針: Henri Darmon、Fred Diamond、Richard TaylorによるWilesの証明の簡略化版の解説に沿っている。人間からの数学的入力は、Tianyi Peng氏による「Jacobian as a scheme sounds high priority」「push [the] Mazur [theorem] to be done soon」といった時々の高レベルな指示に限られたとしている。
  • 査読: 2024年からコミュニティの形式化プロジェクトを率いるImperial College LondonのKevin Buzzard氏に証明を共有し、同氏が査読した。同氏は「数学の公理以外の仮定なしにフェルマーの最終定理を証明した」「AI自動形式化の成果物はその上に構築できるほど頑健になった」と評している。
  • 公開: 証明の全文はGitHubで公開され、証明のウォークスルーも添えられている。

どうやって達成したか — Prove2Meとマルチエージェント構成

  • 初期の失敗: 最初の試みは失敗に終わった。エージェントは序盤こそ成果を出したが、すぐにプロジェクトの状態を見失い、協調が機能しなくなった。失敗した取り組みは最終証明の非定型行の約7%に寄与したという。
  • Prove2Me: 転機になったのは、Tianyi Peng氏とコロンビア大学の共同研究者が設計した数学形式化向けのオープン協調プラットフォームProve2Meの導入だった。役割は3つある。(1)定理文の有向非循環グラフ(DAG)を維持し、エージェントが次に取り組む証明を判断できるようにした。(2)定理文と証明を別ファイルに分離してLeanのコンパイルを高速化し、資源消費を抑えた。(3)各定理文に自然言語の説明を付けて検索と再利用を可能にし、証明経路を単純化した。
  • 実行体制: Prove2MeとClaude Codeベースのマルチエージェントハーネスにより、数十のClaudeエージェントが概念定義・中間定理の証明・それらを使った難所の証明を分担し、2週間弱で証明を完成させた。消費した出力トークンは約60億で、使用モデルはClaude Fable 5.1におおむね相当する汎用の社内研究モデルとしている。
  • 背景: Fermatが余白に主張を記したのが1637年頃、Andrew Wiles氏による初の証明が1995年(129ページ)で、その検証にも数か月を要した。形式化はJan Bergstra氏の提案に始まり、2024年にBuzzard氏が開始したコミュニティの取り組みでは、初期段階の設計図(blueprint)だけで86ページに及んでいた。Anthropicは今回の形式化が「数年かかると予想されていた工程」を11日間で終えたと位置づけている。
  • 関連論文: Prove2Me自体は論文としても公開されており、arXivで参照できる(Chen, Marwaha, Lu, Yuen & Peng (2026), doi:10.48550/arXiv.2608.28433)。

意味づけ — 検証の負担軽減と今後

  • Anthropicの主張: 複雑な証明の自動形式化は、数学全体を容易に検証できる未来への大きな一歩だという。AIが生成する証明が増える中で、人間が読む解説に加えて形式化された証明を添えることが、数学界がAI生成の貢献に追いつく唯一の現実的な方法になる可能性があるとしている。
  • 副次的な実験: 個人向けのClaude Maxプラン3件だけを使った小規模実験では、エージェント群がProve2Me経由で協調し、Vinogradovの三素数定理の形式化をわずか3日間で完成させた。適切な足場があれば、コンシューマー向けサブスクリプションでも主要定理の協調形式化は可能だという見方を示している。
  • 研究支援: Anthropicは純粋数学や形式化に取り組む外部研究者向けに無料・割引のサブスクリプションや研究クレジット、大規模科学プロジェクト向けの助成を提供しているとし、他の主要ラボも学術研究者向け支援を拡大していると付記している。
  • 読み手への注意: 今回の新規性は新しい数学の発見ではなく「検証」にあるとAnthropic自身が明言している(リーマン仮説をめぐる最近のAI研究が新規の数学を生んだのとは対照的だという)。また証明の規模の大きさには、Mathlibが簡潔で査読済みなのに対し、今回の証明は必要以上に長い可能性が留保として添えられている。

出典